千日前青空ダンス倶楽部『桜咲く憂鬱』
08年05月
@シアターぷらっつ江坂
千日前(せんにちまえ)と言われても関西人でなければピンと来ないかもしれません。由緒正しき・・・いや因縁浅からぬ上方芸能の爆心地であった場所の名です。今でも例えば吉本興業が本拠を構えていたりと、これぞ大阪という熱気に溢れています。元々は処刑場でしたかね。曰く言いがたい磁場を持ったところです。知ってか知らずか現大阪府知事が、この地からその歴史を伝える演芸資料館を放逐しようとしている昨今です。お寒い話です。
千日前青空ダンス倶楽部はダンスボックス代表の大谷燠氏が“紅玉(あかだま)”として主宰するカンパニーで、ダンスボックスの初期の活動拠点であった千日前トリイホールで旗揚げされています。その後、同じ磁場内である新世界フェスティバルゲートに腰を落ち着けましたが、大阪市によるお粗末極まりない顛末を経て今は大阪市北部の新大阪・江坂地区にて軒を借り雨風をしのぐ状況です。また元の土地へ戻ることができればいいですが。
まず4名の女性が背丈よりも高い大きなわら箒を逆さに構えて立ち尽くすシーンから始まりました。逆さ箒が何を意味するかを考えるに、なかなか意味深な幕開けです。厄介な客人を家から追い出すおまじないですね。白塗りに黒いドレスを纏った女性が逆さ箒を片手にぼんやりと佇む様子はやや滑稽でありながらも、ぞわぞわっとおぞましさが伝わってきます。追いやられた者たちの怨念を見るようです。一転してダンス(箒とデュエット)が始まると、箒の繁み(?)の部分から籾殻のようなものがバラバラと湧き出て舞台に降り積もります。「花見タンゴ」というシーン標題から連想されるに、箒はここで花散る桜の木ということでしょうか。
その後、人魚姫、井の中の蛙、閉店後の酒場にて、常に遠のいていく風景、下降感覚と上昇感覚、レプラ氏の踵、と題されるシーンが続きました。酒場の場面にて給仕の格好でワインボトルを手にして舞う女性の姿は、前作『水の底』での手鏡のシーンに続いて脳裏に焼きつきました。このあたり、昭和モダンを思わせるような描写に絶妙な色香を感じます。今回、新しくメンバーに加わった野田まどかの演技力もよく場面を引き立てていました。展開としては、終盤にもうひと盛り上がりあって欲しかったところです。後半続いた、紗幕や細長い布を使って空間構築したシーンではそれら美術の物足りなさも相まって、あまり集中した時間にはなりませんでした。
「桜咲く憂鬱」〜Melancoly of Spring〜
演出・振付:紅玉
出演:稲吉、ぽん太、あやめ、小つる、ぼたん
舞台美術:川井ミカコ
(2008/5/29 記)