▼このブログについて(更新停止中)
2004〜2009年夏頃までの関西のコンテンポラリーダンス公演をメインとした目撃録です。その時期に関西であったコンテンポラリーダンス公演の8割方は観てると思います。その他、民俗芸能、ストリップ、和太鼓、プロレスなども。2000年の維新派『流星』から見始めて、多い年は年間270本。2007年は、エジンバラフェスティバル、ダンスアンブレラなど半年に渡る欧州漫遊の記。2010年以降もぼちぼち劇場には出かけていますが、更新する時間はなくなり現在放置中のブログです。


【明倫artレビュー】「走る!踊る!五月のダンストレイン・B1スケッチ日和」


「走る!踊る!五月のダンストレイン・B1スケッチ日和」
2009年5月10日 京阪電車貸切列車内・アートエリアB1

※このレビューは京都芸術センター通信「明倫art」 2009年7月号に掲載されたものです(INDEXはこちら


通り過ぎゆくものに目を凝らして

目の前を通過してゆく列車がある。普段なら気にも留めない光景のはずが、ふと、横切る車窓のなかに見えた・・・、それは、まるで亡者のような白塗り女であったかもしれないし、はたまた変質者めいた真っ赤な男達であったかもしれない。いずれにしろ、その日いつもの列車は、ひとときの異世界を運んで皆の日常の中を横切った。

2009年5月10日、京阪枚方市駅から中之島線なにわ橋駅の間を走った「ダンストレイン」に乗車した。枚方市駅に集まった乗客は5つのグループに分けられ、それぞれの車両へと乗り込む。5両編成の列車をまるまる貸切っての運行だ。

京阪電気鉄道株式会社とNPO法人ダンスボックスによるアートプロジェクトは、まだ中ノ島線が工事中の頃から継続的に行われてきた。このダンストレインは、そうした積み重ねが生んだ企画と言えるだろう。まさか、明日にはまた通勤客を運ぶであろう車両に白塗りの舞踏家が舞い降りるとは!

定刻、当イベントの企画者でもある竹ち代車掌による車内アナウンスとともにゆっくりと列車は動きだす。5組のアーティストが、まずは5つの車両を行進して開幕の挨拶。連結部を抜けて現れる百鬼夜行のごとき隊列にゾクゾクする。今貂子、セレノグラフィカ、花沙、村上和司(率いるREDさん達)、安川昌子の5組。さらに音楽隊として下村陽子(うた)、ワタンベ(パーカッション)、宮田あずみ(アコーディオン)の3人。

すぐに、それぞれの車両に分かれて、パフォーマンスが繰り広げられた。最初、1車両に1組ずつに散らばった面々は、除々に互いの車両に侵入をしはじめ、狭い車内でひととき交錯しては行き過ぎてゆく。乗客は長い車両を行き交う様々な出来事の、その一部分を目撃することになる。すべては見えないというところが面白い。

そして、事前に乗客には参加パスとして、四角く窓が切り抜かれた厚紙を手渡されている。実は第二部として、スケッチ大会が行われたのだ。そのための一助として、あえて世界を切り取るフレームを乗客は持つ。見ることを意識化させる仕掛けがここにも。

25分ほどでなにわ橋駅に到着し、列車を降りた乗客は、駅に併設のアートエリアB1で、思い思いに今日見た光景を画用紙に表現する。はいどうぞ、と一様に差し出されたものではなく、ひとりひとりが切り取った世界の断片が鮮やかによみがえってくる。普段なら気にも留めないような人間の身体に、ふと通り過ぎてゆく何かを発見する。列車という舞台装置が、思いのほかコンテンポラリーダンスを見る楽しみを増幅させてくれたことに驚いた。