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2004〜2009年夏頃までの関西のコンテンポラリーダンス公演をメインとした目撃録です。その時期に関西であったコンテンポラリーダンス公演の8割方は観てると思います。その他、民俗芸能、ストリップ、和太鼓、プロレスなども。2000年の維新派『流星』から見始めて、多い年は年間270本。2007年は、エジンバラフェスティバル、ダンスアンブレラなど半年に渡る欧州漫遊の記。2010年以降もぼちぼち劇場には出かけていますが、更新する時間はなくなり現在放置中のブログです。


【明倫artレビュー】イ・ソンア『Waves』





イ・ソンア『Waves
KOBE‐Asia Contemporary Dance Festival #1
Dance Circus ASIA編 Solo Collective より
2010年1月24・25日 Art Theter dB 神戸

※このレビューは京都芸術センター通信「明倫art」 2010年3月号に掲載されたものです(INDEXはこちら


寄せては返す、この波の向こうで

「人の振り見て我が振り直せ」ではないが、私たちは「外」に目をやることによってはじめて、「内」というものを理解することができる。「内」だけにいつまでも閉じこもっていれば、いずれは腐敗してしまうだろう。だから、何においても「外」へとひらかれていることが大事ということ。

さて、日本のコンテンポラリー・ダンスにおいては、そもそも欧米から輸入した文化であることから、欧米は「内」か「外」かで言うなら「内」である。なので、いつまでも欧米中心にこのシーンを捉えていると、気付かぬ間に空気は停滞してしまい、そのうちどこからか腐臭が漂ってきてもおかしくない。

そんなところに、爽やかなアジアの風を送り込み、「外」へと目を見ひらかせてくれるのが、今回取り上げる「KOBE‐Asia Contemporary Dance Festival #1」だ。アジア各国のコンテンポラリー・ダンスの「今」が神戸・新長田に集まった。

4つあるプログラムのうち、国内外8組のダンサー・振付家が出演した「Dance Circus ASIA編 Solo Collective」を観た。日本勢以外ではフィリピン、韓国、マレーシアからの参加だ。

最も印象的だったのが韓国のイ・ソンア『Waves』。舞台中央でうつ伏せに寝そべっている女性。肘を付き、上体は反り起こしているが、頭は垂れ、ふんわりした髪の毛だけが見える。そして肘から先、特に手指が、しなやかに、なまめかしく揺らめく。時にスピードを増し、その指が髪へとかかる。ふわっと髪が波打つ。すると、その波間からキラキラと銀粉が舞い上がる。

照明はひとすじのスポットが射されるのみ。音楽はアグレッシブなエレクトロニカ

髪に指が触れるたび、キラキラした空間がふんわりと広がってゆく。そうして、手指だけからだんだんと他の部位まで動きが伝播してゆく。その蠱惑的な動きと形の連鎖は、いったい何を見ているのか分からなくなるほどに新鮮だ。

人がダンスしている、というものではなくて、なにか別の生き物であったり(例えば花と蝶の戯れ)、はたまた非生物による動き(例えば万華鏡)を見ているように思える。

ああ、この人の「我が振り」は、もはや「人の振り」など見ておらず、もっと「外」の何かへとひらかれているのだろうなと思った。作品タイトルは「Wave(波)」に複数形の「s」となっている。寄せては返す波の動きのひとつひとつに、ダンスの無限の可能性を託しているかのようだ。

この海の向こうで一体何が起こっているのか、気になってくるではないか。