j.a.m. Dance Theatre『忘れてしまえ、すべてはすんだ話だ』
08年3月
@伊丹アイホール
このような作風をここまで粘着質に構築できる振付家は、上の世代をみても非常に数少ないのではないか。躍動する身体はないけれど、そこには粘り強い思考から生み出された、身体をめぐるたしかな風景があり、交感がある。
とくに今作で、また新たなフェーズに入ったように思う。これまではどこかしら寓話的な世界観があり、ともすれば観ているものに舞台やダンサーとの距離を感じさせるような面があったと思う。それは僕が(何度か書いたとおり)、彼らの作品がどこか“世界の底”のような場所で繰り広げられており、少し俯瞰的な視点で見たくなるような感覚を抱かせられたことにも通じてくる。それはそれで興味深かったが、やはり舞台作品としては強度に劣る面もあったのだと思う。
しかし、一ヶ月ほど前に京都芸術センターで発表された『ソウルメイト』、それから今作『忘れてしまえ、すべてはすんだ話だ』においては、そうした寓話的な世界観からは離れて、ただそこにある生身の身体へと向かおうとする意思を強く感じた。俯瞰される身体を経た今、変わって浮かび上がりつつあるのは観るものの鼻先に突きつけられる生体生理だ。常に循環、流動して形定まらぬ営みを、5人の男女が濃密に交錯する風景へと暴き出す。生々しい生の実感のこもった世界がそこにあった。
アイホールダンスコレクション vol53
Take a chance project 019
j.a.m. Dance Theatre『忘れてしまえ、すべてはすんだ話だ』
演出・振付 / 相原マユコ
空間美術 / スエモトタモツ
出演 / 久万田はるみ、森井淳、今田葉子、高柳敬靖、藤井雅(0九)