Ko Murobushi『Quick silver』
Dance Umbrella 2007
07年10月
@The Place : Robin Howard Dance Theatre
開演後の入場はシャットアウトするために、遅れてきた客に配慮してか開演時間が押されてゆく。10分、15分・・・。通常とは逆で、客席の緊張感は増してゆく。どこかでなにかが倒れたのか、なんでもない物音にザワついていた客席がスッと静まってしまう。変な沈黙が流れる・・・。怖ぇ。
舞台下手の手前には小さな砂山が輝いている。それがゆっくりと暗闇に染まってゆくと、闇の奥にくたびれたスーツ姿の室伏鴻が亡者のように現れる。顔面はビニールのようなものが捲かれており表情はない。ふらふらとしたおぼつかない歩行とは対照的に、ときおり挟まる腕の動きが息をのむほどに鋭利だ。
顔面が開かれて暗転。次に見えてくる姿は全身シルバーの裸体。照明は地を這う。寝そべった肉体の中を細かな細かな痙攣が無数に飛び交う。最初は冷たく感じたそのシルバーは、じりじりと沸点に近づいてゆき次第に峻烈さを増す。立ち上がろうとする肢体のテンションは、しかし一瞬の内に蒸発し倒壊する。砂塵が舞う。何度も立ち上がり何度も倒れる。何度も何度も・・・。そのとき室伏鴻の顔には薄い笑みが浮かんでいるようだった。私は、エッジに立つとはこういう事かと思った。
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つまり、僕らが行けるエッジではないのですよ。円環でイメージしたらすぐ分かるんですが、たとえば[絶望]〜[普通]〜[希望]という3つの場所で考えてみよう。まあ普通の状態から絶望や希望の狭間へお出かけすることは誰でもできますね。でもそこから淵に落ちてもまだ進んで、そしたら現れる[絶望]〜[希望]の境界。円環でイメージしてくださいね。円の向こう側で絶望と希望が隣接する場所。ここはヤバイ。“阿呆と天才は紙一重”とかの世界ですから。室伏鴻が言うエッジとは、例えるならこういう場所なのだと思ったのです。ゆるい説明ですんません。
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