【明倫artレビュー】「オトエホン−17」(黒子沙菜恵、木村英一ほか)
「オトエホン−17」
2010年5月27日 UrBANGUILD
※このレビューは京都芸術センター通信「明倫art」 2010年7月号に掲載されたものです(INDEXはこちら)
ライブの質感、セッションの誘惑
ダンスが観たいなら、アバンギルドのスケジュールはぬかりなくチェックすべきだ。木屋町通りの古ビルのなかに、身を潜めるように存在するそのライブスペースは今、京都だけでなく関西で最もダンスを観られるスポットと言ってもいい。月に3〜4本はダンスアーティストが関わるライブが開催されているだろう。
そこでは、京都を拠点とする舞台、音楽、美術などのアーティストが集い、混沌とした磁場が形成されている。秩序だった京都芸術センターとともに、車の両輪として京都のアーティストの地力を鍛える場となっていると感じる。
そうした場で、コンテンポラリーダンスの黒子沙菜恵、木村英一らが出演するイベントを観た。「オトエホン」と題されたイベントは、画家の足田メロウが主催するもので、すでに17回目を迎える。
今回は足田のライブペインティングとダンス、バイオリンによるセッションが2つ。最後に、オーバーヘッドプロジェクターを使った映像パフォーマンス(orologio)が行われた。
黒子の出演したセッションはバイオリンに宮嶋哉行、足田のペインティングは画用紙に描く絵をステージバックの壁に映写するものとなった。
たっぷりと水を含んだ水彩絵の具がじわりと輝き、滲み、乾いてゆく。バイオリンの音色は、時にねっとりと、時に刃のように空間を支配する。黒子の動きは、外に向けて開かれるのではなく、内向きに内向きに、なにかいびつさのようなものを抱き込むように現れる。
またもう一方は、木村のダンスに、イガキアキコのバイオリン、足田のペインティングは壁に掛けられたキャンバスに直接描くものとなった。
荒々しく飛び散る真っ黒い絵の具の線。何事もないようにステージ上で脚立を昇り降りする足田。クールな視線を投げかけながら、ギシギシと空間を歪ませるイガキのバイオリン。飄々として、どこかかろやかな木村のダンス。観客の子供が一緒になってステージ前で遊んでもいる。
ダンスを主とするような書き出しで始めた文章だが、ここではダンスの伴奏として音楽があるのではなく、また、ダンスの背景としてペイントがあるのではなく、こうしたすべての要素の中心に渦巻く「生(ライブ)」の質感が観客を誘惑する。
強くて柔軟なダンスでないとこの場では存在できない。他ジャンルの表現も同様だ。そして観客としては、おいしい料理やお酒を味わうかのごとく純粋にそのライブ空間に身をゆだねればよい。
そんな楽しさと刺激を改めて再認識させられたライブだった。